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WROLD ALL(仮題) …ドイツ語のヴェルトール。 事象世界、宇宙の意。 1月1日 ア ルヘイム(鯰の故郷)というこの国は大陸西方の南部、スードと呼ばれる比較的温暖な地域を領有している国で、大昔からエルプ山脈をはさんだ北部のトイトや 西部のケルト、東部のポレなどに居を構える、ヴァナヘイム、ヴィンドヘイム、ニザヴェリルといった国々とは領土をめぐって何度も戦争を繰り返している歴史 を持つ。 大昔のスードは都市ごとに小国家が軒を連ね、争いあっていたのを300年ほど前に初代の王となるヴァーヴォル1世が統一してアルヘイムを建国したといわれており、そのような国柄もあってか、弱肉強食の実力主義が常識となっている国でもある。 他の国と何度も戦争を行い、その度に勝利してきただけあって兵器や戦術などの技術は高いものを持っているのが自慢でもある。 アルヘイムは(ほかの国も大抵そうなのだが)身分制度の強い国で、王族、貴族、士族、平民、農民の階級ごとに階層を作って社会が形成されていた。 王族と貴族が政治をつかさどり、士族が軍事を担う。 一応、専制主義国家ではあったが地方分権の色も濃いという一面も持つ。 というのも、もともとが小国家の集まりで、統一後300年たつ現在も貴族たちは地方の都市を領有してそれなりの勢力を保っている。 故に、王族の子弟が玉座を巡って争うときなどには、貴族の後ろ盾をどれだけ多く味方につけることが出来るか、というのが重要視された。 第27代目の国王であるヴィーウル4世の死去の直後、次の後継者として最も有力であったのは王弟ニューラーズ公だった。 彼は7つの地方都市領を支配する7人の大貴族の後ろ盾を得て、第28代目のアルヘイム国王として即位するはずだった。 しかし、即位の直前となって7人の大貴族のうち6名が、先王の忘れ形見である12歳になったばかりの幼い王女、ローニを新王をとして推挙、そのまま強引に即位させてしまったのである。 これには、6人の貴族たちとニューラーズ公との間に政治上の権限をめぐる衝突があったと噂されている。 ローニ女王の後見人あるいは摂政となった貴族たちは、既に成人し頑迷で自己中心的なニューラーズ公を御しがたいと判断し、まだ幼い女王を傀儡として自らの思うままに政権を握る心積もりでいたのだ。 当然、王になるはずだったニューラーズ公はこれに納得するはずがなく、唯一自分を後援するラーズスヴィズ伯とともに女王と貴族たちに対し叛乱を企てた。 しかしならが、公とラーズスヴィズ伯の持つ戦力では、既に近衛騎士団と常備軍を掌握した貴族たちに対抗できるはずもない。 どう見ても勝ち目はないはずだったが、公には勝算があった。 公は、切り札ともいえる「援軍」を配下の魔法士に命じて召喚していたのである。 その援軍とは、国外…ヴァナヘイムやヴィンドヘイム、あるいはスードの西端の小国ロガフィエルなどの周辺諸国から呼び寄せたものではなかった。 国内の紛争に外国の力を借りれば、後々面倒なことになるのはわかりきったことだ。 ただでさえ、諸外国はスードの温暖で肥沃な土地を虎視眈々と奪う機会を窺っている。 ならば、公はどこに援軍を求め、貴族たちに対抗しようとしたのか? その答えを、貴族たちは戦場で知ることになる。 近衛軍と常備軍を率いてヴァグリーズの平原へ会戦に赴いた6人の貴族たちは、そこで異様な姿かたちの軍隊を目にすることになる。 見たこともない銃や砲、そして鉄の車を使う、まだら色の服を着た異貌の集団が、そこに待っていたからだ。 修道会の本部ヴァルファズル大聖堂は三つの巨大な円錐状の建築物が寄り集まったような形をしている。 この巨大建築物は250年ほど前に当時の国王ガングレイリ2世が命じて建築が始まったもので、着工してから120年ほど経過した段階で工事が打ち切られ未完成のまま現在に至る。 建築予算が国庫に多大な負担をかけるとの理由から建築途中のまま放棄された西の塔の上部三分の一は、基礎の骨組みだけという少しみすぼらしい姿をさらしていた。 その西の塔に、私たち「姉妹」の寮は置かれていました。 今日も王都から修道会へ魔法士の援軍を求める女王の(貴族たちの、というほうが正しいかも知れない)使者達が大聖堂の城門前広場で開門を求める声を叫ぶ。 ほどなくして人の背丈の3倍はあろうかという巨大な門は開かれ、使者たちは中へと入っていった。 私はそれを寮の自室、南側に面した日当たりのいい小窓から見下ろしている。 最近はそれが、日課になりつつあった。 早駆けの馬で来る使者の一団が大聖堂に来ない日は一日とてなく、彼らが肩を落として帰ってゆかなかった日も未だなかった。 異世界軍…ジエイタイを味方につけたニューラーズ公の軍は既に貴族の支配する二つの地方都市領を攻め落とし、王都まで40里の距離まで迫っているという噂だった。 「姉妹」たちの間では、私たち「魔法士」が異世界軍と戦うことになるのかならないのか…つまりは、修道会が貴族たちに援軍を差し向ける決定を行うのか否かという話題でもちきりで、誰もが訓練や勉強に手のつかない有様…というよりは、噂話や議論のほうに夢中になっていた。 現在のところ、修道会は中立、不介入の立場をとり続けているが、将来的にどうなるのかはわからない。 大聖堂が王都のすぐそばにある以上、この場所も戦争に巻き込まれないとも限らないのだ。 「それは、無いんじゃないのかな」 『黄色の姉妹』のスルーズが唐突にそう言ったので、『赤』のミストや『黒』のスケルグが「突然何?」とでも言いたげげな顔をこちらに向ける。 『黄』の派閥に属する感応系の魔法士であるスルーズは、他人の思考を読む魔法に長けている。 彼女は、私が頭の中で考えていたことを読み取り、それに答えたのだが、ミストやスケルグにはわからない話だったので、二人は怪訝そうな顔をしたのだ。 「修道会は神聖不可侵な神の家だもの。 修道会に手出しをしたら、国中を敵に回すことになるわ。 ニューラーズ公がそんな暴挙に出るとも思えないけれど」 それを聞いて、スケルグが「なんだ、その話?」とあきれたような顔で納得する。 私も、いきなり人の思考を読んで話しかけてくるスルーズの突拍子の無さには少し呆れるものがある。 いきなり話しかけられた方はびっくりするだろうし、周りで聞いていた人たちもいきなり何を言い出したのか戸惑うだろう。 スルーズは、そのあたり天然でデリカシーに欠けているんじゃないかと思える節もある。 「そ、そんなつもりは無いんだけれどなっ…でもその言い方はひどいよっ」 彼女はまた私の思考を読んだけれど、ミストとスケルグには話が伝わってないのでわからない。 スケルグは「二人だけで会話するのやめてくれない?」と溜息をつくし、ミストに至っては何がなんだかわからず、きょとんとしている。 「…で、スヴァンは何を考えていたって?」 スケルグが書き物をしていた手を止めて、私を見る。 私の名前は本当はヒルデというのだけれど、ここの「姉妹」たちはスヴァンヒルデ…さらに前半分だけでスヴァンと呼ぶ。 スヴァンヒルデというのは御伽噺に出てくる、戦場で戦士たちを導く戦乙女の名前らしいけれど、私は自分の名前を変えられて呼ばれるのはあまり嬉しく思っていない。 もっとも、スケルグや「姉妹」たちの多くは「もともとヒルデというのはスヴァンヒルデが短くなった名前なのだからいいのよ」と言って抗議しても押し切ってしまう。 だからなんとなく、私はここではスヴァンという名前で呼ばれていた。
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626 名前:始末記[sage] 投稿日:2016/06/18(土) 01 46 23.16 ID jX5TYPQS 百済沖 おやしお型潜水艦『もちしお』 アガフィア海亀甲艦隊と2隻の潜水艦の戦いは続いていた。 「目標11に魚雷着弾!! 目標11圧壊しています。」 「目標11上部から離脱する物体群に4番魚雷自爆。 放出された物体が散り散りになっています。」 残りの魚雷は12本。 こちらに向かってくるのは大型生物は4匹。 大型生物と小集団を仕留めるのに必要なのは最低でも8本。 艦長の佐々木二佐はまだ自艦と敵との距離があるので余裕があった。 第一斉射が89式魚雷の有効射程距離限界ギリギリの27海里/50キロメートルから攻撃だったこともある。 だが友軍の潜水艦『鄭地』はだいぶ距離を詰められている。 何より敵小集団のものと思われる何かが外側から『鄭地』を叩いている音もソナーが捉えている。 何で叩いてるかわからないが、潜水艦に孔を穿つほどではない。 「『鄭地』からスクリュー音が減少。 『鄭地』がマスカーを起動させた模様です。」 マスカーと呼ばれる気泡発生装置により、艦周辺の水中に気泡を作られていく。 本来は音源となるスクリューを主とする音を水中で伝わりにくくする装置だ。 また、艦体との海水と船体の摩擦抵抗の軽減にも使われる。 『鄭地』の艦体表面に取りついていた重甲羅海兵達が気泡に押し流されていく。 或いは摩擦が軽減して滑って『鄭地』から放り出されていく。 そのまま『鄭地』から四本の魚雷発射された。 目標9、10に魚雷が命中し、自爆した魚雷が小集団を粉砕されていく。 「残り2匹。 仕留めたのが3匹ずつなら互いの沽券も傷つけまい。 よし舵そのまま、機関逆進! ピンガーを打て!」 戦闘中に政治まで考慮しないといけないのは佐々木二佐に取っても煩わしかった。 『もちしお』と『鄭地』は互いの獲物を追跡する。 百済沿岸 定置網が重甲羅海兵達に犠牲を強いている頃、その定置網を水揚げをしようとしていた各漁船に無線で状況が漁師達に伝わっていた。 「なんだ魚じゃないのか・・・」 魚群探知機には大量に獲物の影が映っていただけに漁師達の落胆は激しかった。 「迂闊に引き揚げると危ないってか?」 「でも亀のモンスターなんだろ? 肉は食えるし、甲羅は漢方や鼈甲になるから損はあるまい。」 「じゃあ、もう少しひっぱり回して弱らせとくか。 それと・・・、武器を出しとくか。」 国防警備隊も漁師達も亀人が獣人の一種である認識も無いし、敵が軍隊であるとも考えていない。 単なる昨今問題視されていたモンスターのスタンピードの類いだと思われている。 漁師達は普段から用意してあるモンスターを相手にする為のダイナマイトや猟銃、銛を手に持ち始めて、海面に姿を見せた重甲羅海兵達を仕留めていく。 重甲羅海兵達は固い甲羅を持っているが、海遊する為には四本の脚や頭部や尻尾を甲羅から出さないといけない。 露出した部位が攻撃を受けて負傷した者や死亡した者が続出した。 さすがに全ての重甲羅海兵が定置網に捕らわれていたわけではない。 二千匹ほどの重甲羅海兵達が、定置網を避けて海面まで浮上して突破したからだ。 定置網や漁船の包囲を抜けて胸を撫でおろしていた。 だがそんな彼等の前に高麗国国防警備隊の李舜臣級駆逐艦『大祚栄』、太平洋型警備救難艦『太平洋10号』が姿を現した。 「攻撃を開始せよ。 一匹たりとも逃がすな。」 『大祚栄』艦長の命令のもと、『大祚栄』のMk-45 127mm砲が発砲する。 ゴールキーパー 30mmCIWSも海上を舐めるように掃射を開始する。 Mk 32 3連装短魚雷発射管から6発の魚雷が発射され重甲羅海兵の密集した海域で自爆して肉片や甲羅が爆風に巻き上げられて空を飛ぶ。 『太平洋10号』もそれらを突破してきた重甲羅海兵達に40mm連装機銃、シーバルカン 20mm機銃、ブローニングM2重機関銃を撃ち込んでいく。 加えて2隻から発進したスーパーリンクス 300が2機とKa-32ヘリコプターがドアガンを用いて海面の掃射に参加する。 水柱がところ構わず数十、数百本と立ち上がる。 だがその海面の地獄を掻い潜り、アガフィア海亀甲艦隊が海中を通過していく。 海面が激しく叩かれて、爆発で海上、海中が乱れているので、上手くすり抜けられると思われた。 しかし、『大祚栄』のソナーや魚群探知機は逃がさない。 『大祚栄』のMk 41VLSが開き、対潜ミサイル紅鮫が次々と発射された。 対潜ミサイル紅鮫は上空で落下傘を開いて減速、着水した。 着水時に落下傘を切り離し、スクリューが稼動する。 その後は魚雷としてアガフィア海亀甲艦隊を追跡する。 複数の魚雷をぶつける必要がある情報が伝わっていなかったのか6本だけである。 目標を感知した誘導魚雷がアガフィア海亀甲艦隊に次々と命中するが、海中での爆発を受けながらも撃沈、或いは離脱した中型海亀はいない。 アガフィア海亀甲艦隊は遂に百済港のある湾岸に到達に成功した。 エレンハフト城 エレンハフト城の大広間ではサミットが続いていた。 現在はルソン代表ニーナ・タカヤマ市長が問題を提示していた。 ニーナ・タカヤマ市長は日本ではグラビアモデルをしていた経歴を持つ。 ルソンは23万人の在日フィリピン人やその日本人の伴侶を主な住民としている。 これらに加えて転移当時来日していたフィリピン人も共に市民生活を送っている。 問題は男女比が25対75な点である。 「圧倒的に女性が多くて労働力が足りません。 現在は協定に従って大陸民を地域から追放していますが、都市では大陸人の移民を望む声も一定数あり、当局は対応に苦慮しています。 当然のことながら軍警察の男性隊員による実働部隊が30名と少なく、治安の悪化と大陸民の都市部郊外での居住区の成立を防げていません。」 このままではスタンピード防止の為の駆除作業も遅々として進まず被害を受ける可能性が大であった。 産業も特に育っていない。 膨大な女性の大半は水商売や性風俗の経験者ばかりだ。 しかも転移から十年も立つと高齢化により需要も右肩下がりだ。 領域内に炭鉱もあるのだが開発を行うことも出来ていない。 ルソンからの希望は各都市からの資本の投入と多国籍軍の派遣であった。 サミット参加国はこれを了承するとともに地球系人類との積極的婚活を支援する声明が出された。 ルソンに割り当てられた時間が終わり会議は休憩の時間となった。 書類をまとめている秋月総督や秋山補佐官のもとに高橋陸将が『くらま』や『もちしお』から送られた戦況が書かれた報告書を差し出してくる。 ただモンスターの種類まではまだ調査中となっていた。 「海洋モンスターのスタンピードですか。 まあ、順調なようですね。 何か懸念になる点でも?」 「『鄭地』ですが魚雷の使いすぎです。 高麗に魚雷の生産能力は無いはずです。 一応、忠告をしといた方がいいと思いますが・・・」 高麗国は軍艦から潜水艦といった艦艇の建造能力を保有している。 だが他の兵器の製造能力は限定されていた。 それでも本国の3島には結構なサンプルが残っていたので再現と量産を目標としていた。 最も資源の確保自体が停滞しているので日本からの輸入頼りになっているのが現状だ。 「高麗国って何を生産してるんですか?」 高橋陸将は少し考えこんで答える。 「近年は『大祚栄』と『太平洋10号』の主砲や機関砲の弾薬に集中してましたからね。 あとはK1A1 5.56mmアサルトカービン、ブローニングM2重機関銃とその弾薬。 野外炊事車、浄水セット・・・ ああ、最近はK131多用途車の再現に成功して、次はK311小型トラックだとか言ってましたね。」 比較的常識の範囲で意外であった。 ミサイルや魚雷の生産にはいまだに携わることが出来ていない。 つまり現在の在庫が全てなのであった。 「出し惜しみされてここまで、モンスターの侵入を許されても迷惑ですな。 事が終わるまで黙っていたまえ。 それと秋山君。 本国に高麗が長魚雷の輸入を打診してくるかもしれないから対応を考慮してくれるよう連絡しといてくれ。」 話し合っているうちに休憩時間は終わり、サイゴンの代表が壇上に立つがバルコニーや窓の側にいた人間達が騒ぎ始めた。 高橋陸将がバルコニーから外の光景を見渡すと、エレンハフト城から見渡せる百済の港湾に数隻の船のような物体が港に向かっていた。 高橋陸将はその物体を見て舌打ちする。 「亀甲船? なるほど我々に対するイヤミか。」 エレンハフト城から距離はあるのだがその大きさから形は辛うじて見てとれる。 高橋陸将は大広間にいる白泰英百済市長を睨み付けた。 それは城内の日本人達に伝染していった。 険悪な雰囲気に新香港の林主席もやり過ぎだと肩を竦めていたが、謂われの無い視線の集中に白市長は身震いしていた。 「誰だあんなもの用意してた奴は!!」 自分を市長の座から引き摺り降ろそうとする反動主義者によるセレモニーと疑って掛かっていた。 百済市にいる市民は日本に観光や仕事で来ていた人間ばかりで比較的反日傾向は薄い。 だが高麗本国の人間には警戒が必要だった。 現に港で反日デモを行っていたのは本国に籍を置く市民団体が中心になっている。 百済市と高麗本国との対日姿勢における温度差は、白市長にとって悩みの種であった。 再び警備隊の幹部を呼び出して命令する。 「さっさと警備隊を港に派遣して連中を排除しろ!! このままではサミットが台無しだ。」 アガフィア海亀甲艦隊 旗艦『瞬間の欠片』号 『瞬間の欠片』号は海底を這って進んでいた。 おかげで地球系海軍にはまだ見付かっていない。 その内部で艦隊を指揮するザギモ・ザロ提督は、損害の大きさに頭を抱えていた。 百済の港にようやく中型海亀を侵入させたが、魚雷による負傷で浮上させざるを得なかった。 だが港に侵入したにも関わらず、何故か攻撃は受けていない。 港には数隻の軍船の姿が確認されているが、まるで動きを見せていなかった。 「重甲羅海兵の生き残りはどれくらいか?」 ザギモ・ザロ提督は味方の状況を整理していた参謀に問い質す。 「先鋒隊の一部が交戦中なので、詳細は不明ですが。 湾内には千と百ばかり。 そして、本船の三百は無傷です。」 作戦開始時には一万を数えた軍団が1400しか残っていない。 「撤退を命じるべきなんだろうな本当は・・・」 「ですが退路はすでにありません。」 本当は軍隊と認識されていないので、湾外に逃げ出した重甲羅海兵達は追撃を受けておらず退路はガバガバである。 ただ潜水艦による後背からの奇襲。 巧妙な網を使って待ち構えていた罠。 迎撃に出てきた軍船による激しい攻撃。 「やはり我々の作戦は漏洩していたのだろうな。」 「残念であります。 ここまで周到に待ち構えていた敵です。 我々を生かして帰す気はないでしょう。」 「だが敵の王達が参集しているというのは本当のようだ。 せめて、一太刀浴びせてくれよう。」 ザギモ・ザロ提督は右前足を静かに振って、全軍に前進を命じた。 百済港 デモ隊と亀甲船の排除を命じられた国防警備隊の隊員達はパトカーやバスを改造して造った輸送車で百済港に到着していた。 責任者の一人である隊長柳基宗大尉が、岸壁に陣取るデモ隊の一人に声を掛ける。 「おい亀甲船を早く撤去しろ。 あちこちに迷惑が掛かってるんだよ。」 声を掛けられたデモ隊の若者は困った顔で、柳大尉に海上を見るよう指を指した。 岸壁には数隻の手漕ぎボートをもとに造られたみすぼらしい亀甲船が浮かんでいた。 大きさは二メートルほど。 城から見えるサイズではない。 柳大尉はそのデザインに些か失望を覚えた。 次に若者が港湾の奥を指差す。 そこには城から見えた巨大な亀甲船が浮かんでいた。 舳先には亀甲船の特徴の竜頭もついている。 「竜頭にしては丸いか?」 だが勇壮な姿は子供の頃に妄想した『ボクの考えた最強亀甲船』そのものだった。 「そうだよ、亀甲船はああじゃないと。」 「あれ、俺らが用意したのじゃないです。」 「えっ?」 若者の言葉に驚いていると、亀甲船の舳先の竜頭がこちらを向いていて目が合ってしまった。 「敵襲!!」 叫びと同時に海中から無数の岩球とハンマーが飛んできて警備隊とデモ隊に降り注いだ。
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東大陸編目次 第11話 第11話あとがきと補足 第12話 第12話あとがきと補足 第13話 第13話あとがきと補足 第14話 第14話あとがきと補足 第15話 第15話あとがきと補足 短編『戦竜の時代は終わったのだ。』 短編『戦竜の時代は終わったのだ。』あとがきと補足 第16話 第16話あとがきと補足 第17話 第17話あとがきと補足 第18話 第18話あとがきと補足 第19話 第19話あとがきと補足 短編『再び元の世界に戻る、その日まで。 』 短編『再び元の世界に戻る、その日まで。 』あとがきと補足 第20話 第20話あとがきと補足 外伝的掌編『『賢者の石』を捜索せよ。』 外伝的掌編『『賢者の石』を捜索せよ。』あとがきと補足 短編『機械の館』 短編『機械の館』あとがきと補足 小ネタ(本編関連)『ディギル海賊団』 小ネタ(本編関連)『ディギル海賊団』あとがきと補足 第21話 第21話あとがきと補足 小ネタ『またも勝ったり、無敵皇軍!』 小ネタ『またも勝ったり、無敵皇軍!』あとがきと補足 第22話 第22話あとがきと補足 第23話 第23話あとがきと補足 短編『神賜島の開発計画』 短編『神賜島の開発計画』あとがきと補足 小ネタ『性能要求資料』 小ネタ『性能要求資料』あとがきと補足 第24話 第24話あとがきと補足 短編『御成婚』 短編『御成婚』あとがきと補足 短編『対戦車銃部隊』 短編『自動車に乗り遅れるな!』 短編『自動車に乗り遅れるな!』あとがきと補足 外伝的掌編『サンパチ銃』 外伝的掌編『サンパチ銃』あとがきと補足 短編『捕鯨船と海竜カレー』 短編『捕鯨船と海竜カレー』あとがきと補足 本編と外伝の中間くらいの掌編『皇国軍の基地祭』 外伝的掌編『最高のレシプロ戦闘機』 外伝的掌編『最高のレシプロ戦闘機』あとがきと補足 外伝的掌編『神賜島物語 ~空閑穂積の場合~』 外伝的掌編『神賜島物語 ~空閑穂積の場合~』あとがきと補足 外伝的掌編『皇国に雇われる現地人労働者』 外伝的掌編『皇国に雇われる現地人労働者』あとがきと補足 外伝的掌編『リアン様の自動車教習-蒸気侯爵の本気-』 外伝的掌編『リアン様の自動車教習-蒸気侯爵の本気-』あとがきと補足 第25話 第25話あとがきと補足 外伝的掌編『皇国人との初遭遇』 外伝的掌編『皇国人との初遭遇』あとがきと補足 第26話 第26話あとがきと補足 第27話 第27話あとがきと補足 第28話 第28話あとがきと補足 単発外伝『とある新聞の社説より』 単発外伝『とある新聞の社説より』あとがきと補足 第30話 第30話あとがきと補足 第31話 第31話あとがきと補足 外伝短編『F世界のミシュランガイド(?)』 外伝短編『F世界のミシュランガイド(?)』あとがきと補足 第32話 第32話あとがきと補足 第33話 第33話あとがきと補足 第34話 第34話あとがきと補足 外伝的掌編『シャーナ。母になる』 外伝的掌編『シャーナ。母になる』あとがきと補足 第35話 第35話あとがきと補足 掌編『祭り酒屋』 掌編『祭り酒屋』あとがきと補足 第36話 第36話あとがきと補足 超掌編『軍人と一角獣』 超掌編『軍人と一角獣』あとがきと補足 掌編『皇国製帆船、異世界デビュー』 掌編『皇国製帆船、異世界デビュー』あとがきと補足 第37話 第37話あとがきと補足 掌編「人生、苦あれば楽もある、か」 掌編「人生、苦あれば楽もある、か」あとがきと補足 短編『突撃一番』 短編『突撃一番』あとがきと補足 第38話 第38話あとがきと補足 第39話 第39話あとがきと補足 掌編『幽霊会員的小国』 掌編『幽霊会員的小国』あとがきと補足 第40話 第40話あとがきと補足 掌編『傭兵ギルドからの催促が凄い。』 掌編『傭兵ギルドからの催促が凄い。』あとがきと補足 第41話 第41話あとがきと補足 第42話 第42話あとがきと補足 掌編『外交官の真似事も増えたなぁ。』 掌編『外交官の真似事も増えたなぁ。』あとがきと補足 第43話 第43話あとがきと補足 第44話 第44話あとがきと補足 第45話 第45話あとがきと補足 掌編『大事件。』 掌編『大事件。』あとがきと補足 掌編『柳の下に泥鰌は二匹いない。』 掌編『柳の下に泥鰌は二匹いない。』あとがきと補足 第46話 第46話あとがきと補足 第47話 第47話あとがきと補足 第48話 第48話あとがきと補足 掌編『シャーナさまと蓄音機』 掌編『シャーナさまと蓄音機』あとがきと補足 外伝『イルフェス王女義勇連隊の裏側』 外伝『イルフェス王女義勇連隊の裏側』あとがきと補足 第49話 第49話あとがきと補足 第50話 第50話あとがきと補足 第51話 第51話あとがきと補足 東大陸編の補足へ
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西暦2021年4月1日 13:00 ゴルソン大陸 日本国東方管理地域 独立行政法人『新大陸開発機構』 自衛隊は戦争を行うという点において、それなりに優秀な組織だった。 しかしながら、戦争によって入手した広大な地域を発展させられるのかと問われれば、答えはNOである。 自衛隊、つまり軍隊は、そこまでの事を任務としていない。 そういうわけで、権力のぶつかり合いの果てに、各官庁の合同で行政法人が作られる事になる。 今までほとんど出番のなかった中央官庁から生え抜きの官僚が集められ、そして新大陸へと送り込まれていった。 それが2020年の終わりの事である。 年度が替わり、拡大と発展を続ける新大陸からは、さらなる人員の補充を求める要請が出されていた。 そのため、若手官僚の中から志願者を募り、合計で40名の若手官僚たちが船舶によって新大陸へと輸送された。 「長旅お疲れ様でした。新大陸へようこそ!」 港から高機動車で運ばれてきた若手官僚たちは、整列して歓迎の意を表している自衛官たちに敬礼された。 「自分は皆さんの護衛とお手伝いをさせていただく山田一等陸尉と申します。 早速ではありますが、皆様に当施設の中をご案内させて頂きます。 荷物は最寄の隊員にお預けください」 彼の言葉を合図に、複数の自衛官が歩み寄り、一同から荷物を受け取る。 救国防衛会議の体制下で官僚として生き残れた彼らは、それを当然としていた。 権利に伴う義務を強要する。 しかし、義務を果たすのであれば多少の特権は与える。 大雑把に表現すれば、今の日本で公務員たちに与えられている待遇はそうなる。 まあ、末端の人間たちはそのような待遇など与えられるはずもないのだが。 「それでは、施設内をご案内します」 こちらへどうぞ、と山田一尉は身振りで示し、館内の紹介を始めた。 中央ロビー、シェルター、会議室、主だった施設を淡々と紹介していく。 そのいずれもが、豪華に彩られていた。 中央ロビーはまるでどこかの宮殿のようであったし、各部屋には足が沈み込むほどの分厚い絨毯が敷かれている。 会議室は国会議事堂のようであったし、業務を行う部屋は一流企業のオフィスのようである。 宿舎であると紹介された施設は、高級ホテルに負けない素晴らしさだった。 本土から派遣された官僚一同は、自分たちに与えられた施設に満足した。 それらの施設は電力で稼動し、空調が効いていて、豪華である事を除けば本土となんら変わりがない。 噂に聞いていた新大陸の未開ぶりに内心憂鬱になっていた一同が、安堵を含む満足感に浸っていても誰も非難はできない。 「山田君、あれは?」 そんな中、窓から見える体育館のような大きな建物に気づいた一人が訪ねる。 「ああ、あれは刑務所です。これからご紹介しますね」 山田一尉は笑顔で答え、一同を誘導していく。 その建物は、近づけば近づくほどに異様だった。 外見は普通のコンクリート。 窓は一つもない。 その周囲には、大きな壁が広がっており、どうやら内部には中庭のような空間が広がっているらしい。 「あの施設には窓がないようだが?」 「ここからは見えませんが、施設の屋根中央部分に大きな天窓があります。 日光はそこから十分入っております」 山田一尉の回答は簡潔であり、そして十分だった。 彼はそのまま歩みを続け、頑丈な鉄扉の前に到着した。 「山田一等陸尉である。 新任の皆様をお連れした。ドアを開け」 敬礼して迎える陸士に対し、彼は命令を下す事に慣れた態度で開門を命じる。 巨大な鉄扉は、油圧システムの呻きを立てつつ開き始める。 「山田君、扉の上にある看板は?」 官僚の一人が尋ねる。 扉の上には、一枚の看板が掲げられている。 「スローガンですよ。労働は貴方を自由にする。 犯罪者の皆様には、罰則として労役が義務付けられます。 もっとも、本来の服役期間に対し、労役を行った日数分減刑するのですが」 扉は未だに開き続けている。 防犯上の理由から、素早い開門は行わない事になっているのだ。 当然ながら、閉門の際には危険なほど素早い動きとなる。 「それでは刑が甘くならないか? 犯罪者に対してそこまで優遇する必要はないだろう」 法務省から派遣されてきた男が尋ねる。 彼にとって、減刑とはよほどの事情がない限り許されざる事だった。 「一年の刑期では、半年働けば釈放ではないか。それは問題が」 あるのではないか?と続けようとした彼は、門の中に広がる光景に後を続けられなかった。 暗い表情で穴を掘る男性。 彼の隣では、同じ様にスコップを持った年配の男性が、無表情で穴を埋めている。 『私は拝金主義者です』というプラカードを持たされた数名の男女が、何もない平地に置かれた台の上で背筋を伸ばしている。 その向こうでは、新たに収監されたらしい女性が地面に跪かされ、髪の毛を剃りあげられている。 「これは一体、なんなんだ?」 「ですから、労役ですよ」 先ほどまで愛想よく応じていた山田一尉は、冷酷さすら感じさせる口調で答えた。 「ここにいる連中は、全員が大陸特措法に違反している。 穴を掘っている奴らは職権を乱用した愚か者たち。 プラカードを持っている連中は収賄だ。金銀財宝に目が眩み、犯罪の目こぼしや物品の横流しを行った」 大陸特措法という言葉に、一同は緊張した。 それは『ゴルソン大陸統治に関わる特別措置法』の略で、当然ながら日本人に対して適応される。 つまり、この刑務所の中で拷問のような刑罰に服しているのは、日本人ということになる。 「ここにいるのは、もしかして」 「ええ、皆さんと同じ日本人ですよ」 にこやかに一尉は答えた。 「ここで労役についているのは、基本的に皆様の先輩方です。 もちろん、自衛官や民間人の収容者もおります」 彼は恐怖に慄く一同に対し、あくまでも笑みを絶やさずに説明を続けた。 「今の日本国には、私服を肥やす公務員を見逃しているような余裕はありません。 そして、忍耐に忍耐を重ねている国民たちに対して、言い訳のできない甘い処罰でお茶を濁す事もできません。 公務員として、日本国と日本国民のため、法に反しない生活を心がけて下さい」 彼の言葉に誰も答えられない。 日本人の常識では考えられないほどに厳しい法律が支配する世界に放り込まれたという事実に、全員が気づいたのだ。 しかし、彼らには逃げ出す自由はない。 召喚前と比べ、未だに様々な制約が存在する日本国の中で、公務員は多くの特権を持っている。 それは安定した雇用と収入、通常よりも多い食糧配給である。 もっとも、通常よりも多い食糧配給当は当初の意味を失い、現在では食費が浮くという認識に変わりつつあるが。 「本日はゆっくりとお休みください。 そして、明日よりの任務に励んでください」 山田一等陸尉はそう締めくくると、無口になった一同を宿舎へと案内していった。
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388 名前:UNNAMED 360[sage] 投稿日:2016/04/06(水) 00 50 59.94 ID kecB0WzK 次の話は、まだ練っている最中で筆が進んでおりませんが、久しぶりの登場人物の設定ですー。 リクビト カーマ・セドック ルーザニアの貴族、名門カーマ家の次期領主になる予定の壮年の男性。 年老いた現領主に対日戦の勝利の暁には譲位すると約束され、武勲を立てようと日本に挑むが、近代兵器の洗礼を受け戦死する。 ハイ・ヴォック ルーザニアの王、高き者ハイ家の血を引く王族で、ゴルグに妹を嫁がせて居たが、妹がゴルグの王と共に火刑に処された事で日本を怨み、宣戦布告する。 また、魔力を持たない日本人を蔑視しており、魔力の弱い物は自国民でさえ切り落とす冷酷かつ傲慢な性格。 ジェイク・マイヤー 開拓に失敗して寂れてしまった故郷で親の後を継ぐのを拒み、放浪の旅に出た若者。 日本に敗戦し、日本によって統治される事になった都市国家の噂を聞きつけ、城塞都市ゴルグに興味本位で向かい、日本の国力を目の当たりにする。 それ以降、旅の先々で日本の噂を聞くたびに惹かれて行く。 ツチビト ペトラ 好奇心旺盛なツチビトの少女。不思議な物が大好きで、特に洞窟の外の世界に対して強い興味がある。ツチビトとしては平均的な力だが、リクビトや地球人に比べて怪力。 父親譲りの赤銅色の髪と体毛を持ち、爪は鉱石の様に丈夫。 モーズ 少し短気な性格のツチビトの男性。ツチビトらしく怪力で鶴嘴や金槌などの扱いに長けるが、戦斧も使える。 地下都市の中でも名の知れた採掘士で、街の実力者からも認められた優秀な人物でもある。 好奇心旺盛な娘のペトラに手を焼いており、危険な場所に行かないか常に冷や冷やしている。 ジルバ 豪快な性格のツチビトの男性。かなりの高齢だが、怪力で身体も頑丈、そして優れた採掘技術を持つ採掘士。 モーズとは年の離れた先輩後輩の関係で、気心の知れた友人である。鉱脈や鉱石類に目が無く、新しい鉱脈が発見されると飛びつく様に掘り始め、時には長いトンネルを完成させてしまう事も。 相も変わらず、その場で思いついただけなので、うっかり設定外の事を書いて修正するかもしれませんw うーむ、しかし、ネタを練っている最中でふと思いましたが、結構戦闘描写って難しいのですねー・・・基本まったり回を書いている方が性に合っているのかもしれません。 ルーザニアの品位 どの国にもまともな人は居るのでしょうけどルーザニアは、王族の殆どがアレなので、ならず者国家と化しており、周辺諸国も迷惑を被っています。 ゴルグみたいに周辺諸国にちょっかいをかけている国と好き好んでつるんで、血縁関係を結ぶのですから似た者同士なのです。 ならず者は、ならず者の友が居るという事でしょう。 ちなみに、ゴルグにも情勢を読む能力があり、一般市民たちにも理解がある、まともな王族たちは沢山います。とは言っても、ゴルグの国王の餌食になった元一般人の子供たちなのですが・・・。 あれです、王族の子供が産めるなら文句も言うまいと言う奴です。(外道の極み
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526 名前:UNNAMED 360[sage] 投稿日:2016/08/01(月) 01 51 20.40 ID 0Sxgdj3U 第83話 魔光と突然変異 異世界大陸に進出した日本が、大陸の拠点としている城塞都市ゴルグ、機械化が進み夜も眠らぬ街となりつつあるが、それを支える物は魔石を利用した発電施設であった。 「だぁーーーっ、魔石式発電機にまた、蔦が絡みついてやがる!!」 「初期型の奴は特に酷いが、最新型の奴には全く蔦が絡みついていないな・・・一体何が違うんだ?」 「さぁな、でも現地のリクビト連中は、初期型の発電機の近くが心地よいとか言っているから、周辺に何かしらの影響を与えているんだろう。」 「ふむ・・・・そう言えば、初期型の魔石式発電機は、外部に青白い魔光パルスが隙間から見えているから、これが原因なのかもな。」 「密閉度が高い新型の奴は、魔光が漏れていないから、周りの植物に影響を与えていないのか、じゃぁ、旧式の奴も覆って魔光を押さえておくか?」 「やめとけ、やめとけ、放熱の為に隙間開けているんだから、素人が下手に弄ると故障してしまうぞ。」 「ちぇっ・・・まぁ、そろそろ試用期間も終わりに近づいているし、少しずつ新型の発電機に移って行くから面倒な手入れからも解放されるのも時間の問題だな。」 日本の有志の企業が、開発した魔石式発電機によって広範囲に電力を供給しているが、魔石と言う物質はまだ未知の部分が多く、同時期にゴルグに従来の火力発電も建設されており、魔石式発電に異常が生じた際のバックアップを兼ねている。 魔石の性質が解析されるにつれ、バージョンアップが進んでおり、ゴルグのある一角は魔石式発電機の実験場か博物館の様な光景が広がっている。 そして、初期型の試用期間が終了する直前、事件が発生した。 初期型の魔石式発電機から眩い燐光が漏れ始め、盛大に部品をまき散らして爆発を起こしたのである。 幸い、その場に人は居なかったので、被害は巻き込まれた他の発電機と、発電機を覆うフェンスのみで、人身事故には至らなかったが、青ざめた企業は即座に調査団を派遣した。 「あーあー・・・こりゃ酷いな・・・。」 「発電機がまっ黒焦げだぜ、一瞬だけ広範囲を電気が荒れ狂ってリヒテンベルク図形が出来あがっているよ。」 「それにしたってこれは・・・蔦が絡んでいたのか?変な消し炭が発電機にへばりついてやがる・・・。」 「もしかして、これが故障の原因?メンテナンスの際に草刈りはしていたと聞いたが、これは一体どういう事だ?」 ボコボコ・・・・ッ・・メキメキ・・・。 「ん?なんだこの振動は?」 「っ!!何だ!?発電機がっ!!」 突如、黒焦げになった発電機が浮き上がったと思ったら地中から触手が伸び始め、発電機を握りつぶす様に蔦が外装を破壊し、内部の高純度魔石に蔦が侵入した。 「うわあああぁぁっ!?なんじゃこりゃー!!」 「化け物!!?ひぃっ!?」 発電機内部の魔石を取り込んだ瞬間、植物は、内部の管が青白く光り、脈動した後に他の発電機に触手を伸ばして次々と魔石を取り込んで行く。 「ま・・不味いぞ!?このままだと発電機が全てやられる!何とかしないと!」 「警察・・・はまだ居ないんだった・・・・・・自衛隊を呼ぶんだ、早く!!」 数名の調査団に派遣されていた職員が触手に弾き飛ばされ、怪我を負うが、人間には興味が無い様で、魔力を帯びた物質を取り込もうと周辺を探る様に触手がうねっている。 自衛隊が駆けつけた頃には、電柱程のサイズまで急成長しており、その中心部にはかつて、魔石式発電機の物だった魔石がコアとして鎮座していた。 「うわぁ・・・パニック映画に出て来そう・・・。」 「言っている場合か、あいつを何とかするんだよ。」 「無傷の発電機も近くにあるから、火炎放射器は使えないし・・・困ったな」 「取りあえず、あの狙ってくださいと言わんばかりに発光するアレを撃ち抜いてみるか、良く狙えよ。」 ロクヨンで発光するコアに向けて狙いを定め発砲すると、何かが砕け散る様な音共に青白い粒子が舞い上がり、触手の集合体は、一瞬だけ痙攣すると見る見る内に萎れて行き、遂には完全に枯れてしまった。 その後、直ぐに触手を振り回していた謎の植物の残骸は自衛隊によって回収され、その正体を突き止めるため、生物研究所に持ち運ばれた。 「・・・で、こいつは結局何だったんだ?」 「この地で広範囲に生息している蔦植物の変異体でしょうね、魔光パルスを長期間浴び続けた事によって突然変異を引き起こしたのでしょう。」 「まじかよ、昔怪獣映画でこういう奴見かけたぞ?放射能で巨大化したバラみたいなお化け植物。」 「流石にそれ程たちの悪いものじゃありませんよ、そもそも、急激な変化によって細胞組織がアンバランスになっており、枯れるのも時間の問題でした。」 「枯れたのはコアを直接破壊されたのが原因じゃなかったと?」 「それもありますが、魔石と絡みついてコアと化した細胞組織は、悪性腫瘍の様な形に変異しており、強力過ぎる魔光パルスに耐えきれず半ば自壊していました。」 「確かに自然界には存在しない濃度の魔石だが、まさか発がんするとはな・・・人間には影響はないんだよな?」 「我々含む地球の生物は、元々魔石を利用しない生物ですからね、精密検査を重ねましたが、ほぼ無害と見て間違いないでしょう。」 「現地人達への影響は?」 「・・・・非人道的な人体実験は禁止されております、それが例え地球人じゃなくても・・・です。」 「まぁ、そうだよなぁ・・・。」 眼鏡を指で押して、位置を調整すると、鞄の中からファイルを取り出して、テーブルの上に置く。 「しかし、同じような事故で魔光が周辺に漏れた事があったのですが、1名、強烈な魔光パルスを浴びて意識不明になったリクビトがおります。」 「何だって!?そいつはどうなったんだ?」 「その人物は、元々とある国から派遣されたスパイで、重要施設の破壊活動を行おうとしていたのです。」 「・・・・・・・・。」 「そして、今回破壊されたタイプと同系統の発電機・・・それから魔力を感じたのでしょう、魔石を奪取しようと破壊した瞬間、魔光パルスを浴びて神経を焼かれた様です。」 「自業自得とは言え、何ともエグイ話だな・・・。」 今度は別のファイルをテーブルの上に追加で起き、資料を指さす。 「そもそも、アルクス人は魔光パルスで、やり取りすることが出来、神経を惑わしたり、細胞に調整した魔力を流すことで細胞分裂を促進し傷を塞いだり、まさに魔法の様な現象を引き起こすことが出来ます。」 「現地人も魔法って言っているしな、特に精神操作魔法は、聞く限りではハッキング合戦の様だ。」 「では、その魔光パルスでやり取りするアルクス人に、強力かつ無秩序なパルスを浴びせたとします・・・どうなるでしょうか?」 「あぁ・・・焼き切れたって・・・。」 「そうです、アルクス人が生理的に必要不可欠な魔光も強すぎる物では毒となります。」 「おっかないな・・・魔石が人体に悪影響のある物質じゃなくて良かったぜ。」 「噂では防衛研究所で、対異世界人スタングレネードの開発が進められているとか・・・魔石を利用した兵器の開発は、表向きにはされていない事になっているのですけどね。」 「なんつーか、聞いているだけで碌な事になりそうにないな・・。」 「恐らくアルクス人・・・いえ、この星の原生生物すべてに強烈な影響を与えるでしょう。」 話を聞いた研究員の表情が強張る。 「あぁ、あくまで噂の域を出ませんからね、でも、精密魔石回路の大爆発現象の確認実験の件もありますから、魔石の兵器利用は時間の問題と見て良いでしょう。」 「危険物質がごろごろ転がっていて大丈夫なのかね、魔石自体は珍しくもなんともないんだろう?」 「昔ほどは見かけなくなったみたいですけどね、でも地下の埋蔵量は大したものですよ、むしろ地表に出ている物は、全体のほんの極僅かな方ですし。」 「突然変異を引き起こしたり、爆発したり放電したり、全く持って訳わからん物質だな、魔素と言うのは。」 「そうそう、訳わからんからこそ研究されている訳ですよ、この物質を知る事によってこの新しい世界の法則が理解できると言う事です。」 「まぁ・・・これ程の資源、利用しない手はないがな・・・。」 「さぁ、この変異体の研究を続けましょう、何かしらの対処法が見つかるはずですし・・・。」 その後、各メーカーは、魔石を動力に組み込んだ製品は、魔石が外部に露出しない様に密閉度に力を入れて開発するようになり、自然環境下に高純度魔石が露出される事は少なくなった。 しかし、今回の事故でまき散らされた大量の魔石粒子が、周辺に影響を与えるのはまた別の話であった。 ハリツキヅタ変異体 魔素の集まる魔石式発電所の敷地内で発生した植物の変異体。 元々は枯れた樹木に絡みつき、太陽光線を代わりに吸収する寄生植物の一種であったが、魔光パルスを浴び続ける事により魔光で光合成する植物に変異した。 そして、魔光の発生源である魔石を取り込む事により無秩序な変異が始まり崩壊・暴走状態になった。 強烈な魔素が全身を廻っている所に魔石を砕かれ、魔力を失いリバウンドに耐えきれずに崩れ落ちた。 今回は此処まで・・・高濃度な魔力って有害なイメージがありませんか? コジマは・・・不味い・・・。 魔光パルスを発していない未反応魔石は、高純度でもアルクス人にはさほど影響はないのですが、一度反応を起こして魔光を放ち始めた物は有害です。 ある程度、魔光を放った後は安定期間に移るので、アルクス人が高純度魔石に触れるとしたらそのタイミングになります。 過去に登場した生物 異世界人はある魔物を雄雌関係だと思っているけど、実は唯の近縁種で、もう片方は過去話に登場した超大型生物の幼体だったと言う話は書く予定していますね。 ただ、結構後回しになりそう、色々書きたいものはあるのですけど・・・。 飛び散った魔石粒子 騒動の後に起こったのは一体どういう事か、それほど遠くない内に書きたいと思います。 昔書いた魔物の図鑑みたいな物は、色々と生かしたいですねー、一発ネタの生物も結構な数になると思いますけど。 ハルクのような人体変異 ハルクになったケースだと、1000年前に大陸を荒らしまわった人食い族がそれに相当しますね。 現在は絶滅されたとされ、国通しで小競り合いをしながらも地道に復興と発展をしているみたいです。大陸の国々は 地下生物 地上の生物よりもダンジョンの生物の方が強そうなイメージがありますよね。 思うよりも魔鉱石の含有する場所は多く、強力な魔光パルスの影響で現地人が近づけない洞窟とかも存在します。 ちなみに、日本と入れ違いで地球に転移したマントルは、スーパーボルケーノをぶちまけて青白く発光する魔鉱石の溶岩を垂れ流しております。 日暮熟睡男の部屋 日暮熟睡男・・・うーん、よくわからないので検索したら、こち亀の登場人物でしたか。 部屋がどうなっているのか分かりませんが、謎生物が発生するんでしょうかね? スライム 微生物もちゃっかり魔力の影響で変質していますが、それはこの星で元々良く起きる現象なので特に問題ないと思います。 次々と生物が進化し続ける星、惑星アルクス、この世界でイレギュラーな存在である日本はどのような影響を齎すのか・・・ご期待ください。 高濃度エネルギーに晒されて怪物爆誕! 何かの間違いで、あらゆる耐性が高くて自衛隊の攻撃が殆ど通用しない怪物に成長していたら不味かったかもですね。 でも、元となる生物が強くなければ、魔石の魔力に耐えられずに崩壊しちゃうかもしれませんね。 膨大なエネルギーを浴びて進化したり狂暴化したりするのは、この手の作品のお約束だと思っていますww もしかしたら、現地の人や日本人が知らないだけで、異世界にとんでもない怪物が息をひそめているかもしれませんね。 コジマ粒子は、凄まじい環境汚染を引き起こして、街が砂漠に沈んでいましたねぇ・・・。 エースコンバットのイーオン粒子は環境浄化作用があるのに、AC同士で、どうしてここまで差がついたのか。(後者はACEと言う呼び方もあるけどねw
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ある日、富士の裾野に所在する陸上自衛隊西富士駐屯地が、忽然と姿を消した。 突然の異常事態に日本国内は騒然となり、『日本陸軍キャンプが消失!』などというテロップで、海外でも特番が組まれるほどの大騒動になった。 情報収集や事態の確認に右往左往する日本政府と自衛隊、チャンスとばかりに与党の責任問題を追及しようと目論む野党、オカルト的な騒動を引き起こすカルト教団などで国内の混乱は最高潮に達し、あわや、非常事態宣言が発動されるのではといった矢先のことだった。 件の陸上自衛隊駐屯地は、何事も無かったかのように、以前と変わらぬ姿で、全く同じ場所に再び姿を現したのだ。 異世界の住人と、異世界へと繋がる恒久的な門と共に。 行方不明になっている間、駐屯していた陸上自衛隊の部隊は、異世界の住民と平和的に接触して友好関係を築くことに成功しており、門の向こうの住人達は非常に友好的だった。 その異世界の住人達というのが、狼の耳に酷似した動物の耳と尻尾を持っていたということが、騒動に拍車をかけることになったが、彼らのメンタリティーや生活様式が驚くほど日本人に似通っていたため、国民には意外なほどすんなりと受け入れられた。 日頃から日本人が慣れ親しんでいるサブカルチャーの影響も大きかったかもしれない。 異世界へ繋がる門は、再出現した駐屯地の営庭に出現しており、その存在は世界的な大ニュースとなった。 どの国もこぞって門の先に存在する新天地に食指を伸ばそうと試み、日本政府に大小様々な圧力をかけてきた。 同盟国ヅラして、まるで当然の如く一枚噛もうとする国、国連の名の下に管理しようなどと言い出して、自国軍を日本に駐留させようとする国、日本国内の「平和主義者」を煽動して、門の管理を息のかかったNGO団体に委ねさせようと画策する国、何故か謝罪と賠償を要求してくる国など、挙げればキリが無い。 日本政府は、お得意の玉虫色の対応で、ハイエナのように群がる各国からの攻勢をのらりくらりと躱しながら、門の先にある異世界との交流に注力していた。 「自衛隊の異世界に対する武力行使はんたーい!」 「自衛隊は、今すぐ異世界を開放しろー!」 西富士駐屯地へと続く公道の脇では、目に痛い原色の幟を掲げた「平和主義者」達がデモを行っていた。 人数自体は大した事は無く、60代以上の老人が十数人程度、といったところだ。 炎天下の中、自衛隊の車列に向かって、盛んにシュプレヒコールを上げている。 どうやら、自衛隊の車両が通りがかるたびにやっているらしい。 「このクソ熱い中で、よくやるもんだ」 73式小型トラックの助手席から一瞥し、長良二尉は小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。 横断幕の中に「ヘイトスピーチ反対!」だとか「反原発」などと明らかに無関係なものが混じっている事については、苦笑するしかない。 「これでも、ちょっと前に比べれば、随分と大人しくなったもんですけどね」 ハンドルを握っている橘三曹が暢気に答えた。 「まあな。俺達が戻ってきてすぐの頃は、もっと酷かった」 陸上自衛隊駐屯地の消失と帰還。そして、開かれた異世界への門。 それらの熱狂がある程度収まると、今度は門の向こうで自衛隊が何をやっていたのかに焦点が向けられた。 当時、訓練の関係で西富士駐屯地を訪れていた長良と橘は、所属する普通科中隊と共に、異世界への転移と帰還を体験していた。 異世界は巨大化した虫が人間の生活を脅かす異質な世界だった。 不測の事態に直面した駐屯地司令は、自分たちの身を守るため、そして偵察によって近くに存在することが判明した村を守るため、災害派遣の害獣駆除名目で武器使用を許可した。 自衛隊の活躍で、隊員にも現地の人々にも奇跡的に死傷者が出なかったのだが、自衛隊が武器使用を行ったということで、その手の団体が騒ぎ始めたのだ。 自衛隊が害獣駆除目的で武器を使用したことは、多くは無いが過去にも事例がある。 しかし、たかが虫退治のために、武器を使用したとは何事か、というわけだ。 その虫というのが、全長が成人男性の身長にも匹敵する大きさの、食肉性の強い巨大ダンゴムシだったとしてもだ。 一時期、駐屯地前は、往来が困難なほどに抗議デモを行う市民団体が押し寄せ、更にそれにカウンターを加える保守系市民団体や民族系右翼などで溢れかえり、双方から逮捕者を出すほどの騒ぎになったりもした。 そんな混乱の最中、いくつかの国々で、日本に出現したものと同じような、異世界への門が現れ始めた。 突如、自国内に現れた新天地への入り口にどの国も躍起になり、日本に構っているどころではなくなったのだ。 国土だけは広い隣国も同様で、なんと国内に複数の異世界への門が出現したのだ。 その前後から、何故か「平和主義者」によるデモの数と規模が目に見えて激減したのだが、偶然の一致なのだろうと、長良は皮肉っぽく考えていた。 橘が運転する73式小型トラックは、罵声を浴びせたり中指を立てたりするデモ隊の前を悠然と通過し、正門より駐屯地内に入った。 車体側面には、『第5次外地派遣隊』の横断幕が掲げられている。 「外地」とは、政府が設定した異世界に対する呼び名だ。 元々は、大日本帝國時代の海外統治領を指す言葉であったため、「異世界を植民地化するのか!」などという批判が野党から起きたりもしたが、内閣は「日本国外にある土地という意味でしかない」という答弁で一蹴していた。 「いつ見ても奇妙なもんだな」 営庭に出来た門を眺め、長良は嘆息した。 駐屯地が異世界から戻ってきた直後に形成された異世界への門は、営庭のど真ん中にぽっかりと口を空けている。 その様子は、空間に穴が開いているとしか表現のしようがなく、どの方向から見ても、全く同じ大きさ・形に見えるのだから不思議だ。 門の大きさは、横幅約4メートル、高さ約3メートル程度の大きさで、10式戦車一両が何とか通れるくらいと、あまり大きくは無い。 横幅はともかく高さが意外と低く、外地への装備の持込には意外と手間取った。 何しろ、陸自のワークホースである3.5t大型トラック(新型)でさえ、幌がつかえてしまうのだ。 外せば何とか通過できるので、然程問題にはならなかったが、問題は他の装備についてだ。 どうしても必要なものについては、分解して門をくぐり、向こうで組み立てるなどして持ち込む必要があった。 ヘリなどはその最たるもので、OH-6程度の小型ヘリであれば、ローターを外せば、台車に乗せて搬入することが出来たが、UH-1クラスになると、そうもいかない。 門を取り囲むように設置された検問所では、行き来する車両や人員の検閲が行われており、小型トラックは、そんな車列の最後尾に着いた。 転移当時、中隊付幹部の三尉として害獣駆除に参加していた長良は、部隊間の調整業務に従事し、直接戦闘には参加していない。 長良は、自分達のやることを現地の人々に分りやすく伝えるためということで、総合火力演習的な演出をしてみてはどうかと上申した。 これならば一目瞭然だし、あまり協力的ではない年寄り連中を黙らせることが出来ると考えたからだ。 そして、発言者の常として、その演出とやらのお膳立てを一任されてしまった。 長良は、本番の総合火力演習用にと用意されていたオーロラビジョンを、村からよく見える位置に設置した。 FFRS(無人偵察機システム)からの偵察映像をオーロラビジョンに中継して放映するためだ。 更に、見た目も威力も派手な99式155mm自走榴弾砲4両を、同じく目立ちそうな置に配置した。 状況が開始されたあとは、彼自らがトラメガを手に、興味深そうに見守る村人達に向かって、司会進行の役もやってのけた。 これがことのほか現地の人々――特に若い世代に好評を博し、その後の良好な協力関係に少なからず影響を与えた。 その功績から二尉に昇進した長良は、現在では外地派遣隊の司令部付隊に身を置き、日本・異世界間の調整役として、新たに付けられた部下の橘と共に、日本と異世界を忙しなく行き来している。 ちなみに、この時に使用された4両の15榴については、日本側に戻すことが困難なため、虫対策として現地に配備されることになった。 長良の任務は、主に外地派遣隊の定時報告や需品の調達、現地での民生支援・宣撫工作、思想調査など多岐に渡っていた。 思いがけず昇進してしまったことについては素直に嬉しかったが、こんなわけのわからない異世界なんぞとオサラバして、通常の部隊勤務に戻りたいというのが彼の本音だった。 こんなことになるなら、あの時余計な口を挟むんじゃなかったと、若干後悔もしていた。 ふと、運転席の橘に目をやると、車列が進まないのをよいことに、スマートフォンを弄り始めていた。 橘も長良同様、転移から帰還した後に、陸士長から三曹に昇進している。 長良の下につくまでは、普通科小隊の一員で、96式装輪装甲車の銃手として害獣駆除に参加していた。 物怖じしない性格で、悪く言えばお調子者なのだが、現地の人々ともすぐに打ち解ける柔軟性を持ち合わせていた。 長良とは対照的に、彼は外地での任務を彼なりに楽しんでいるクチだ。 「どうです、二尉。この子、可愛いでしょ?」 長良の視線に気付いた橘は、人懐っこい笑みを浮かべながら、スマートフォンの画面をこちらに向けてきた。 そこには、自撮り撮影と思われる画像があった。 一人は橘で、その隣には、和服に似た服装の狼耳の少女が、はにかむような笑顔で映っている。 「セツコちゃんって言うんです。とっても良い子ですよ。料理も上手なんです」 友人に彼女を紹介するような橘の口調に、長良は僅かに眉を顰めた。 外地で仲良くなった少女なのだろうが、明らかに未成年だ。 友好関係を築くのはいいが、無闇に深入りするのは感心できない。 「……どうでもいいけど、警務隊の厄介になるような真似はするなよ」 「やだなぁ、大丈夫ですってば……おっと」 前の車両が移動を始め、橘はあわててスマートフォンを仕舞うと、車を前進させた。 「あ、そういえば、二尉。海のほうでも、門が見つかったって話、知っています?」 「ああ、海自の哨戒機が見つけたって話だろ。勘弁して欲しいよな」 「そうすか? 俺は面白いと思うんですけどねえ」 お気楽そのものの橘に、長良は軽い頭痛を覚えた。
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478 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23 26 [ imAIk9NE ] アジェント王都、その栄えた町並みの中をアルクアイとファンナは歩いていた。 ワイバーンで直接王城に行くこともできたのだがそれをしなかったのは 自分がやっていた行動の成果を確かめるためであり、そして結果は上々であった。 日本との接触後、アルクアイは王国全土に「日本脅威」という噂を多数の工作員を使って流し続けていた。 それが実を結んだのだろう。民衆の噂話はこの新たに召還された島のことで持ちきりであった。 試しに仕事の休憩中なのだろう、道端に座り込んでいる男に声をかける。 「おい、知っているか?」 「ん、何をだ?」 男はアルクアイのほうには目も向けずに返事をする。 だがそれは丁度良かった、アルクアイの服装を見ればこの男はすぐに平伏し、会話もできなかっただろう。 「新しく召還された島のことだ。」 「ああ、聞いてるぜ、なんでも人の生き血をすする化け物どもの島だったらしいな。 よく分からない機械なんてアシェナの神に背くもん使って、一つの船の船員皆殺しにしてその血黙りの中で高笑いしてたらしいじゃねえか。 ああ、怖い怖い。王国もとんでもないもん呼び出してくれたもんだぜ。」 「そうか。ありがとう。」 「あん、礼されるほどのことじゃねえよ。」 結果は、上々のようだった。 479 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23 27 [ imAIk9NE ] 王城、広間。 まだ会議の三日前だが、ここにはすでに多くの諸侯達が集まり、 お互いの普段の労をねぎらいながら、会食を開いていた。 場の中心となっているのはイルマヤ候であった。 イルマヤ候、彼の支配する土地は貧しいものの王国当初からの名門で、更に名産のワイバーンを使ったワイバーン軍団は王下部隊に匹敵すると言われる程の精強さを誇っていた。 そしてこの会議においてはアジェルの弟ジョナスを推すことによって、 王家の元で権力を得ようとする保守派の男であった。 しかし、この会議においては、唯一の敵に思えたアルヴァールの追い出し工作をしただけで、 後は自らの権勢に甘えて、何の多数派工作もしていなかった。 いや、それは工作をする必要も無いほどの権力を持っていたともいえるのだが。 そして会食の賑やかさがピークにさしかかろうとした時、扉が開き、 参加者達が一斉にそちらのほうを見た。 「ラーヴィナ候の代理、ファンナ様、アルクアイ様がいらっしゃいました。」 メイドが淡々と言い、広間の中はシンとし、すぐにヒソヒソ声が聞こえてきた。 「どうも、ウェルズ様の代理として参りました、アルクアイでございます。」 「ファ、ファンナですっ。」 アルクアイが慇懃に礼をするのを見て、ファンナもそれに続く。 他の諸侯達の目は、好奇に満ちていた。 480 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23 28 [ imAIk9NE ] 「アルクアイ・・・、聞いたことありまして?」 「いいや、ないなぁ。どこの家の出なのだろうか。」 「いやいや、所詮歴史の浅いラーヴィナの貴族でしょう、たいしたことありませんよ。」 「それにしても可愛らしいお孫さんだ。しかしこんな少女が出てくるとは。候本人の病気は大変な物になっているらしいな。」 名門諸侯、貴族は口々に勝手な憶測を口にする。 それに対し、中小諸侯達は皆、親しみ深い目を二人に向けていた。 それを見てアルクアイは自分のもう一つの策略がうまくいったことを確認した。 彼はイルマヤ候とは対照的に、領地の富裕さを背景に中小諸侯に対する金のバラ撒きを行っていた。 この会議で王位継承者を自らの推した者に決めた者が、これからの国政の主導権を握る。 アルクアイはそう睨んでいた。 そしてアルクアイの推す予定の人物はアシェリーナ姫、本来の王位の正統継承者である。 そこには正統継承者を推す事で、自らの正当性も示そうという彼の魂胆があった。 だからこそ、これから必要となる金を大量に使ってまでも多数派工作を行ったのである。 そしてその多数派工作と、アルヴァール魔術大臣の押しがあればイルマヤ候が反対しても、 アシェリーナ姫を王位継承者に容易く推したてることができると彼は考えていた。 しかしここに来て見たらどうか!?アルヴァールの姿が見えないではないか。 この状況でアルクアイがこの会議の主導権を握るには彼は一芝居打つしかなかった。 481 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23 29 [ imAIk9NE ] 私は弱小諸侯サフラーヌ候の部下のしがない貴族である。 そんな私にとってこの王侯会議に来れたのは最高の幸運であった。 この体験は恐らく一生の宝となるだろう。 緊張する我が身を押さえ、主の命令どおりイルマヤ候へと挨拶に行く。 遊牧民族に襲われた我が領に、アルヴァール様が来て下さったのはイルマヤ候のとりなしがあったからなのだ。 その意味で彼は我等の恩人といえるお方であった。 そしてもう一人、イルマヤ候へと挨拶に行く男性が居た。 彼は確かラーヴィナ候の代理のアルクアイ殿。 容姿端麗で男の私も惚れ惚れするような人物であった。連れている少女も可愛らしい。 そしてラーヴィナ候もまた、我等中小諸侯に援助をしてくださった恩人であった。 彼ら二人の会話が終わったらその事をお礼申し上げようと決めた時であった。 その事件が起こったのは。 482 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23 30 [ imAIk9NE ] 「どうも、ラーヴィナ候代理、アルクアイでございます。」 幸い近くにいた私には彼らの言葉は全てクリアーに聞き取れた。 「おお、ウェルズ殿の・・・。そうだ、一杯どうかね。」 「はい。ありがたく頂きます。」 イルマヤ候はアルクアイ殿のグラスに酒を注ぎながらその顔にグッと近づいた。 「おや、君はどこかで見たことが・・・なかったかね?」 「(ああ、修道院の寝所でな。)いえ・・・覚えがありません。」 「ああ、そうかそれなら良いんだ。それよりも君は王位の継承者は誰が良いと思うかね?」 意地の悪いことを聞くものだ。 これは自分の味方かどうか聞いているのと同じである。 イルマヤ候はああやって他の諸侯に圧力をかけているのであった。 軍事力だけなら王家にも匹敵するといわれる彼を敵に回そうとするような馬鹿は居ない。 皆必然的にイルマヤ候の推すジョナス様と答えるしかない。 我々のような中小諸侯は特にである。これにはさすがに反感を持つ者も多かった、私のように。 しかしそれに対する、アルクアイ殿の答えは意外な物であった。 やわらかい笑顔を浮べ、こう答えたのだ。 「(こちらがしようと思った質問をしてくれるとは・・・、都合が良い)私はアシェリーナ姫様が良いと思います、アルジェン様亡き今、彼女が本来の王位継承者ですから。」 その言葉を聞きイルマヤ候のこめかみにさっと青筋が浮んだ。 483 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23 30 [ imAIk9NE ] 広間は奇妙に静まり、全ての人の視線が二人に注がれていた。 なんてことを言うのだ。それが私の率直な感想であった。 あんなことを言えばイルマヤ候を敵に回すことになるのだ。 ファンナ様はイルマヤ候の迫力にすっかり怯え、アルクアイ殿の服の裾を掴んでいた。 しかし自分が権力を握るために王位継承を捻じ曲げる彼に陰ながら批判があったのは確かであった。 実際、我々中小諸侯にはアルクアイ殿が魔王に立ち向かう英雄のように見えた。 「・・・それは、ウェルズ殿の御意見かな?」 「ウェルズ様のご意見は私の意見で、ウェルズ様のお考えは私の考えです。」 「フン、名も知られぬ下級貴族が生意気に。」 「っ!」 ファンナ様が息を呑む。 「(あれは言い過ぎじゃありませんこと?)」 「(全くだ、名門だからと偉そうに・・・!)」 冷たい空気が広間に流れた。 明らかに悪いのはイルマヤ候だ。しかし二人の力関係も身分の関係も歴然としている。 そしてこの国では身分が全て、高い身分の者が行ったことが正しいのだ。 アルクアイ殿も唇をかんで、黙っている。 484 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23 31 [ imAIk9NE ] イルマヤ候のネチネチとした攻撃はなおも続いた。 「そもそもラーヴィナ候自体数十年程度前から商人が成り上がったものだ。まともな回答を期待することが馬鹿であったか。」 ファンナ様が今にも泣きそうな顔になった。 と同時に広間の全員が息を飲んだ。ラーヴィナは幾ら歴史が浅いといっても、 アジェントの中でも一、二を争うほど富裕な諸侯なのだ。 そして、その言葉を聞いた瞬間、アルクアイ殿は何故か一瞬笑ったような表情を見せた。 「私への侮辱は許そう。だが、ウェルズ侯への侮辱は一言たりとも許しはしない。」 銀の光が閃いた。 アルクアイ殿がイルマヤ候に剣を突きつけたのである。 その瞳には激しい憤怒が宿っていた。先程の笑みは私の見間違いだろう。 私はあれ程の憤怒の顔を見たことが無かった。 これには全ての参加者が驚愕し、広間は緊張に静まり返った。 しかし、イルマヤ候も歴戦の武人であり、アジェント全土に名を轟かす剣豪である。 その切っ先を手が切れないように掴み、凄まじい気迫で睨みつけた。 「これは・・・決闘の申し込みと受け取ってよろしいか?」 「そう取ってもらって構わない。」 先に剣を抜いたのはアルクアイ殿である、しかし私を含めこの広間に居る人間のほとんどが、 心の底では主君への忠誠の為には何をすることも厭わない彼を応援していた。
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98 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2014/12/25(木) 08 24 59.56 ID YFMEQl5P 日本ゴルグ自治区から少し離れた港町、かつてゴルグが収める町だったが、ゴルグが陥落した事で、日本が統治する事になった。 大型船が乗りつけられるように拡張工事の最中である港町は、未だかつて無い程の繁栄をしていた。 「ほぉーーっ、ヘンテコな魚が沢山並んでいるぞ!」 日本と大陸を結ぶ交通の要となりつつあるこの港町は、休暇中の自衛官が見物しながら散財する事が多く、市場も賑わいを増していた。 「烏賊なのか蛸なのか微妙な生き物が壺の中を蠢いているぜ?味はどうなんだろうな?」 「いらっさゃいませ、何をお求めでしょうか?」 「この頭がまん丸くて白い蛸っぽい奴、どうやって食べるんですか?」 「あー・・・これは、〆た後、一晩塩に打ち込んでおいて、食べる時に水洗いをしっかりやった後、茹でてそのまま食べるんですぜ。」 「へぇ、美味そうだな、じゃ、それを1匹・・・・うん?」 異世界固有種と思われる魚介類に並んで、見覚えのある魚が葉っぱを利用した皿に山積みになっているのを見つける。 「赤目河豚と草河豚じゃないか?へぇ、こんなのもここら辺の海域でとれるのか!」 「あの・・・旦那、これは毒魚ですぜ?最近潮の流れが変わったのか、見た事も無い魚が釣れるようになりましてね。」 「見た事も無い魚?」 「へいへい、つつくと膨らんだり、ぎょっぎょっと、変な鳴き声を上げるから、珍しがって食べた奴らが居まして・・・・。」 「河豚を食べる!?・・・あの、その人たちはどうなったのですか?」 「暫くすると青い顔をして、口から泡を吐いたと思ったら、そのまま土色になって死んじまったよ、だから最近は毒矢の材料として使われるようになっとりますね。」 「何とも痛ましい事故ですね、日本ではその魚を食べてしまった場合の対処法がある程度確立されてはいますが、死亡率はやはり高いですね。」 「ニーポニアは、この毒魚の毒も対処済みという事ですか、やはりと言うか、流石は大陸に名を轟かせるだけありますな。」 「ちなみに、この河豚だけど、日本では毒の部位だけ取り除いて食べる方法もあるんだよ。」 「毒魚を食べる方法!?そんなのもあるんですかい!?」 魚屋の店主は信じられない事を聞いたと言う感じで、目を大きく見開く。 「私は、やり方を知っている訳ではないけど、専門の料理店が、河豚の毒を回らない様に毒の臓器を切り取って食べられるようにしているってさ。」 「ニーポニアは何故そこまでして、毒魚を食べようとしたんですかい?」 「はははっ、我々は食い意地を張っていますからね、」 「食い意地だけで毒魚に手をだすなんて、信じられませんな」 「最近ゴルグに進出した料理屋でフグ料理でも頼もうかね、店主さん、さっきの白い蛸1匹と草河豚を3匹くださいな。」 「は・・・はぁ・・・。」 自衛隊員が去った後、魚屋の店主は、茫然とした顔で自衛隊員の消えた城塞都市ゴルグに続く道を見続けた。 「ニーポニアは・・・異世界の国は、食い意地だけで毒魚すら調理してしまうとは・・・・。」 レディカ・ポロクチオ 通称:赤毒玉魚 和名 アカメフグ 日本では、毒魚として認識が広い赤い目を持つ河豚の一種。神経毒のテトロドトキシンを含み、食中毒で命を落とす者が後を絶たない。 元々地球原産の魚だが、異世界へ転移する事で、惑星アルクスの海に生息域を広げ、生態系汚染を引き起こしている。 また、その特徴的な姿から、好奇心で口にする異世界人が多く、中毒死が多数発生している。 プクク・ポロクチオ 通称:緑毒玉魚 和名 クサフグ 日本では食用として広く知られている、毒魚で、その身には神経毒のテトロドトキシンが含まれる。 日本の転移に巻き込まれる形で、異世界にもその生息域を広げ、大陸沿岸部で食中毒の被害が発生している。 適切な処置を施していないで、食すと非常に危険、一方、ウミビトを初めとする海の民はテトロドトキシンに強い耐性を持つことが確認されている。 耐性もさることながら、肺機能が低下しても高い皮膚呼吸による酸素供給で生存性は地球人や陸生型アルクシアンよりも高いが、 それでも、摂取は危険で、海の国で法規制が検討されている。 とりあえず、書きかけの話を完成させて投下です。 もう暫く復帰に時間がかかりますが、宜しくお願いします。
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第2部 第8話-2 特別機動船1号 第1河川舟艇隊突撃戦隊 マワーレド川 2013年 2月15日 02時55分 第1河川舟艇隊臨編突撃戦隊のYF2137交通船と4隻の特別機動船は、あっさりと〈帝國〉軍南正面哨戒線の突破に成功していた。 〈帝國〉軍の不手際だけを責めるのは適切では無いだろう。城からの脱出に備えて配置されていた彼らは、背後から有り得ない速度で突撃を受けたのだ。 暗闇を閃光が走り、雷鳴のような響きが轟くと、川縁に配置されていた兵たちが穴だらけにされて吹き飛んだ。それは真っ黒な影にしか見えない謎の軍船が通り過ぎると共に止んだが、短時間のうちに受けた損害は甚大だった。 生き残った指揮官が部隊の混乱を収めるまでには、かなりの時間がかかることは間違いなかった。敵が嵐のように過ぎ去った後には、呻き声と悲鳴に満ちた陣地と、蹴散らされ沈みつつある味方の軍船が残されていた。 突撃戦隊は特別機動船2隻を先行させた。2隻は単縦陣を組み20ノットで北上し、その後方に旗艦と残り2隻が続いている。 合成風力が激しく顔面を叩く。唸りを上げるエンジン音と激しく上下するFRP製の胴体が水面を打つ音が周囲を満たしている。 「こらぁ速力は落とすな、おそれるな! 行けェ!」 SB1号艇指揮の是俣茂(これまた・しげる)三等海尉は、操縦手のヘルメットをバシバシと平手で叩いた。甲高い声が楽しげに響く。 是俣三尉は福井県福井市出身の36歳。一般隊員として入隊し、艦艇乗組みの射撃員として勤めたのち、部内試験を経て幹部に任官した。 中肉中背、たれ目がちの顔は平凡だが、ひげの剃り跡が青々としている。これといって目立つところもなく、何処にでもいる自衛官の一人だった。 異世界アラム・マルノーヴに来るまでは。 「いたぞ、敵の船だ! タアァァリホオオォォォオオオォォオウ! 機関銃! 篝火に撃てぇ!」 彼は明らかに楽しんでいた。 銃架に据えられた74式7.62ミリ機関銃と、船首側に陣取った隊員の89式小銃が発砲する。二種類の異なる轟音が耳朶を叩き、発砲炎が目を灼いた。曳光弾が闇に吸い込まれる。 美しささえ感じさせる光が肉眼ではまだ見えない敵に吸い込まれていった。 「是俣三尉! 左前方に光! 敵らしい!」 「左舷、各個に撃てぇ! 前に撃てるのは我が艇だけだぞ!」 左舷側に発砲。整然と並んで見えていた光が乱れるのが分かった。正面では何かが燃えている。敵の軍船に引火したらしい。 2隻の針路は是俣三尉に一任されていた。そうでなければ、現状で戦闘機動を行うことなど不可能であるからだ。 彼らがいるのは海ではない。付近の川幅は300メートルはあったが、現在の速力で走ればほんの30秒足らずで岸に乗り上げてしまう。しかも操縦には細心の注意を要する上に、速度をあまり落とす訳にもいかないのだ。 飛沫と汗と、おそらく涙で顔をぐしゃぐしゃにした操縦手は、是俣三尉の命令で必死にハンドルを操作している。 「是俣三尉! これ以上は無理ですよォ!」 「泣き言を言うな! 距離100で左に転舵、全火力で一気に叩くぞ!」 「畜生! 何がダンスパーティーだ! ヘヴィメタルのライブより酷ぇ!」 操縦手はヤケクソになって叫んだ。 〈帝國〉軍南正面を突破した2隻の特別機動船は、一本の棒となってマワーレド川を北上し、正面に遊弋していた〈帝國〉軍船に射撃を集中した。200メートルの位置から放たれた銃弾は装甲のない貧弱な船体をその乗員ごと穴だらけにした。 本営の命令を受け迎撃態勢をとろうとし始めたばかりの〈帝國〉軍部隊の多くは、攻撃に対応できていない。渡河途中のオーク重装歩兵たちは筏の上で慌てふためくだけであったし、長弓隊も目標を見失っている。 唯一小回りの利く魔術士部隊が、ルルェド西岸の支城の城壁上で隊列を整え始めていた。 「一体、何が来たのだ!?」 ジャボール兵団魔術士隊第2分隊長のエリアス・ユルカは戦慄を覚えていた。本営からの命令を受けた当初は、無謀な敵が死にに来たと思っていた。 数日前まで敵のものだった支城から見下ろす味方の陣容は圧倒的で、もはや敵の運命は風前の灯火に見えていたのだ。 ──それなのに。 彼の位置から数百メートル南の川岸に布陣していたオーク重装歩兵の陣が大混乱に陥っているのが分かる。松明が右往左往しているのだ。川面にミズスマシのように浮かんでいた軍船部隊も酷い有様のようだ。 光弾が飛んでいる。それも無数に。あんなに遠くから。 敵の放つ光弾が彼の位置からよく見えた。閃光が煌めく場所が術士のいる場所だろう。川の上だ。軍船に乗ってこちらに迫っている。 「ユルカ様、我々は悪夢を見ているのですか? あんなことが出来る術士とは……」 「言うな。俺も信じられんのだ」 彼らは、南方征討領軍には珍しい攻撃魔術士部隊である。だからこそ目の前の光景が如何に異様なことなのかが、他の何者よりも理解できた。 南瞑同盟会議の魔術士だと思われる敵が放つ攻撃魔法は、あまりに多く、射程が長かった。例え威力の弱いエネルギー・ボルトだとしても、あんな勢いで放てばあっという間に魔力が尽きるだろう。 およそ人の為せる業ではない。魔神を召喚したのでもない限り。 だが、彼はただ恐れている訳にはいかなかった。魔術士たちを率いる分隊長として、敵に立ち向かわねばならない。実力がものを言う南方征討領軍にあって、怯懦は許されない。 閃光の発生源は恐ろしい速度で近付いている。眼下の味方は止められないだろう。すぐに支城の眼前に到達すると思われた。ユルカは射程に入り次第、全火力で攻撃すると決心した。 「詠唱を開始せよ。我が命により一斉に放つぞ。敵も当たれば血を流し倒れよう」 熟練の魔術士である彼は、まず『暗視』の術を練り、詠唱した。地に満ちる魔力が彼の両目に集まる。青白い炎のような光が彼の瞳を闇の中で微かに浮かび上がらせた。視界が急速に明るくなる。暗闇と光だけだった景色が、輪郭を取り戻した。 続いて、低い声で攻撃魔法を練る。周囲の喧騒が遠ざかり、不可視の力が手にしたスタッフに集まるのが分かった。彼の部下たちも術力の差こそあれ、同様に攻撃魔法の準備を整えていった。 前方の2隻が放つ射撃は、敵を十分に混乱させているようだった。後続する旗艦の上で、西園寺三佐は手応えを感じていた。 このまま敵を混乱に陥れ、渡河途中の敵を叩き潰す。そうすれば城内に侵入する敵は断たれるだろう。突撃戦隊の狙いはその一点だった。無限に敵が侵入してくるようでは、もうすぐ飛んでくるはずの空挺が苦労する。 前方左右の陸岸に建造物が見えてきた。右手で炎を纏い闇夜に赤く浮かび上がっているのがルルェド城塞、左手に黒々と沈んでいるのが支城だろう。西園寺は少しだけ思案した。すぐに結論を導き出す。彼女は戦場において時間がどれだけ貴重な物かを、感覚的に知っている。 「先任」 「はい」隣に立つ久宝一尉が応えた。 「左に見えるお城の上を叩いてちょうだい」西園寺が言った。「どうせ〈帝國〉の方々が詰めているわ。あたくしのかわいい部下たちが撃ち下ろされるのは御免よ」 「了解しました」口調はともかく、西園寺の判断は至極真っ当だったので、久宝は素直にうなずいた。 すぐさま旗艦と後続する特別機動船から支城に向けて射撃が開始された。曳光弾が城壁に集中し、弾かれた弾があちこちに散る。鈍い音を立てて石造りの頑丈な城壁が砕けた。 背後の味方から左前方にそびえ立つ城壁に向けて射撃が開始されたのを見て、是俣三尉はずっと浮かべていた笑みをさらに大きくした。手持ちの火力は限られている。側面を支援してくれるのは有り難い。 「正面の敵まで100メートル!」機関銃に取り付いている陸警隊員が叫んだ。 「取舵! 速力落とせ! 回頭終わり次第打ち方始め!」 是俣の1号が大きく左に舵を切った。船体が右に傾く。急制動がかかり船は一度大きく揺れた。僚船も後に続く。 高速で突進しながらの射撃は、流石に命中率が低下していた。特に隊員が構える小銃はどうしても射線が上擦っている。敵を混乱させるには問題無かったが、完全に叩くにはもう一押し必要だと是俣は考えた。叩き切らぬまま突入するのは流石に危険過ぎる。 この距離で一度射撃を集中する必要があった。 右側面を敵に向けた2隻の特別機動船から、10を超える火線が伸びた。盛大に薬莢をばらまきながら銃弾が放たれる。 いいぞ。俺は剣と魔法の世界にいる。そして、戦っている。鎧を着た妖魔相手に、7.62ミリ弾を叩き込んでいるんだ! 是俣は今まで感じたことのない手応えを得ていた。多幸感が全身を満たしている。夢が叶ったとまで思っているのだった。 三人兄弟の末っ子だった是俣が、長男に連れられてTRPGサークルの定例会に足を踏み入れたのは中学一年の時だった。彼の人生はその時決定したと言ってよい。多感な思春期に触れるには、それは少々強烈過ぎた。彼はたちまち虜となった。 高校生になるころには、是俣は色々と拗らせた青年へと成長していた。彼が『普通』と少し違うのは、本当に備え始めたことだった。俺はいつか異世界に行くんだ。そして萌葱色の服を着た髪の長いハイエルフと旅をするんだ。毎日そう夢を見た。 彼は就職先に自衛隊を選択した。戦う術を学ぶためである。異世界で身を立てるには、己を鍛えておかなければならない。そう考えたのだ。 適正なのか枠の都合なのか、どういうわけか海自に入隊してしまったが、是俣は腐ることなく『その日』に備えて己を鍛え続けた。 「いいぞぉ! むえーい! 喫水線に射撃を集中しろ!」 平凡な『現実』は去年の夏に砕け散った。そして今、彼は本当に異世界にいる。 ユルカの魔術士分隊は、敵の攻撃をまともに受ける羽目になった。詠唱に集中していた彼の部下たちは、こちらの魔法が届かない距離から飛来した光弾によって、城壁ごと砕かれたのだった。 血塗れの魔術士が、手足を奇妙な方向に曲げた姿で死んでいる。腕を失った部下が静かに痙攣する姿を見て、奇跡的に難を逃れたユルカは唇を噛んだ。 外道め! 一矢報いるまでは死なんぞ。 この時点で、〈帝國〉軍部隊はようやく敵の力を認め始めた。被害を受けたオーク重装歩兵が後方へ下がり、無傷の隊が河辺に進んだ。指揮官たちは的になることを恐れ松明を消させた。 支城の上でも遅れて配置に付いた長弓隊が、敵から見えないようにやや後方で隊列を組んでいる。 しかし、水上に展開していたオーク重装歩兵隊の一部は悲惨だった。筏を浮かべ両岸に索を張り、それを伝って川を渡っていた彼らは、突撃戦隊の射撃を正面から受けたのだ。ただで済むはずが無い。たちまち四割が死傷し、残りの多くも水中に投げ出された。 魔術士分隊は分隊長のユルカだけが戦闘力を保持していた。瓦礫と化した胸壁の合間から、水面を見下ろす。火龍のように火を撒き散らしながら、敵の軍船がゆっくりとこちらに近付いてきているのに気付いた。 やつは腹を上流に向けている。少し遠いが、必ず撃ち込んでみせる。 彼は身を曝した。右手のスタッフを敵に向ける。憎しみが、彼に人生最良の集中力を与えた。青白い魔力の光が、スタッフに集まる。発光する光苔の胞子にも似た粒が、螺旋を描く。 あと、少し。今少しこちらに気付くな。どでかい奴を喰らわせてやるから。 ユルカは魔力が解き放たれるために必要な、最後の呪文を詠唱した。 いい、すごくいいぞ。正面の敵はあらかた叩いたな。これだけやれば、これ以上ルルェドへの侵入は出来まい。 是俣三尉は素早く辺りを見回した。上流方向の敵筏は、沈むか燃えるか無人となって漂うかという有り様で、もはや脅威は無い。軍船も同じだ。対岸にいくら兵を集めても渡河手段を断てば城には渡れない。 これで、守備隊を助ける目が出てきたはずだ。まだ見ぬ異世界の戦士たち。麗しい女騎士や、白髪の老魔術士を、俺は助けられたのかもしれない。最高だ。隣にリユセのエルフがいたらもっと最高だったのに。 その時、崩れかけた城壁の上に動きがあることに、是俣は気付いた。距離は100を切ったあたりか。敵? 身を曝して何をしている……? 「機関全速! 面舵一杯! 急げェ!!」 是俣は間髪入れず叫んだ。背中をどやしつけられた操縦手が慌ててスロットルを開く。船首が持ち上がり、飛沫が隊員たちを濡らした。 魔術士! 生き残りがいたか。 彼の副腎髄質から大量のアドレナリンが放出された。瞳孔が開く。いい具合にドーパミンで満ちていた彼の内部を、新たな神経伝達物質が駆け巡った。 エンジンが唸りを上げ、船首が右に振れる。速力が急激に増した。魔術士。何をしている? 決まっているだろう。攻撃魔法だ。やつは反撃しようとしている。 ローブの裾を翻し雄々しく立つ敵の魔術士の姿が、真夜中にも関わらず是俣には何故だかはっきりと見えていた。陸警隊員が射撃を開始する。曳光弾が魔術士に伸びる。 駄目だ。当たらない。畜生、なんて綺麗なんだ。魔法。本当に魔法だ。敵の魔術士の杖の先がひときわ大きく輝いた。青白い巨大な光弾が発生する。それは真っ直ぐに此方に向かって飛んでくる。 切音。射撃音。部下の悲鳴にも似た報告。様々な音が是俣の脳内を満たす。大きく右に転舵したせいで左側は水面に手が届きそうなほど傾いている。光弾が迫る。 これだ。俺は今、剣と魔法を味わっているんだ。 是俣は喜びと恐怖とその他様々な感情に満たされ、湧き起こる内なる声に蹴飛ばされるように、叫んでいた。 いいぞ! 畜生! これこそが──。 「アァァァル! ピィィィイ! ジィイイイイ!」 「SB1号左舷、至近弾!」 見張りの報告を受け、西園寺は前方に目をやった。巨大な水柱が、多量の水蒸気を伴って特別機動船1号の船体にのしかかっていた。一瞬姿が見えなくなる。 さらに、旗艦を含めた突撃戦隊の周囲に矢と重たい何か──岩だ。赤ん坊の頭ほどある岩が降り注ぎ始めている。 「あら、もう立て直してきたのかしら。意外にやるわね」西園寺は眉根を寄せた。流石に監視哨の敵とは格が違うようだ。 「ひょっとして、深入りしてる?」 「はい。危険な状況に陥りつつあると判断します」 小首を傾げた西園寺に、久宝が冷徹さを感じさせる声で言った。船体に当たった岩が派手な音を立てた。 「わッ、危ねぇ!」 「頭に喰らったらやべぇぞッ!」 陸警隊員たちがたまらず悲鳴を上げた。どうやら岸の敵部隊から投げ込まれているようだ。 「SB1号より報告。艇指揮負傷、戦闘続行可能」 「そう」 「敵は十分に叩きました。一度後退し、態勢を立て直すべきです」久宝が進言した。 「嫌よ」間髪入れず否定する。「あたくしはただ逃げるなんて好みじゃないわ」西園寺は傲然と言い放った。 「しかし! このままでは!」久宝は怒りすら込めて言い募った。この上官はこんな時に何を言っているのだ。顔がそう言っていた。 「先任、早とちりしないでちょうだい。いくらあたくしでもこの場に留まるつもりはないわよ。全艦正面の敵を突破、上流にて態勢を立て直す」 「そっ!?」 「嫌な予感がするの。下流には。突破は十分可能でしょう?」 大きな瞳でじっと見つめられ、久宝は少し慌てた。確かに正面の敵はほぼ壊滅している。反転して南に下るより、上流の方が手薄の可能性は高い。彼は上官の命令に従った。 「突撃戦隊各船に命令を出します」 「急いでちょうだい」 少しは助けになったかしら? 西園寺はルルェド西壁を見た。各所で火の手が上がり、勝ち鬨のような声すら聞こえる。残念なことに味方の旗印を見つけることは出来なかった。夜だから、という訳ではない。間に合わなかったのかしら。彼女は、僅かに表情を曇らせた。 西園寺率いる突撃戦隊は、素早く陣形を整えると上流に向けて速力を上げ始めた。陸からの射撃はいや増すばかりだ。突撃戦隊側も、有らん限りの火力を〈帝國〉軍にぶつけている。 戦闘はますます激しさを増している。一方で、敵味方が入り混じる戦場には、新たなプレイヤーが乗り込もうとしていた。